「海江田葬儀委員長」の下で「嘘つき」の前科を持つ民主党は生まれ変わることができるか{現代ビジネス}

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「海江田葬儀委員長」の下で「嘘つき」の前科を持つ民主党は生まれ変わることができるか
2012年12月26日(水) 山崎 元
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(1)
 総選挙で前回獲得議席の約4分の1になる57議席という大惨敗を喫した民主党が、惨敗の責任を取って辞任した野田佳彦前代表の後を継ぐ代表を12月25日に決定した。読者は既にご存じのことと思われるが、海江田万里経産相馬淵澄夫国交相の二人が代表選に立候補し、海江田氏が90票(馬淵氏は54票)の支持を集めて、新代表に選出された。

民主党は、党勢を盛り返す意味での「再生」が可能なのだろうか。あるいは、それが可能だとして、再生する価値があるのだろうか。

消費税率引き上げへの暴走が「致命傷」

 筆者の結論を手短にいうと、この前の総選挙で惨敗した自民党が復活した前例もあり民主党の再生が絶対にないとはいえないが、相当に難しいだろうと思う。それに、惨敗に至った民主党と連続性を持った民主党の再生には価値がない。

 総選挙の投開票日の夜、筆者は、「現代ビジネス」が主催するニコニコ動画の開票速報番組http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34341に出ていた。この番組に一緒に出演した高橋洋一氏の一言が大変印象的だった。氏は、民主党惨敗の原因について「やっぱり、嘘をつくとダメなんだね」と仰った。

政権交代後の民主党は、マニフェストで掲げた公約に対して、単なる努力不足や力及ばずではない、「嘘」を幾つも重ねた。特に、野田首相が突き進んだ消費税率引き上げは、民主党有権者への約束を反故にして、官僚のコントロール下に入ったことの象徴であり、トドメだったと思う。

(2)
 たとえば、浮気が後から露見した夫(妻)が、配偶者からの信頼をどうやって回復したらいいかを考えて貰えると分かると思うが、重大な問題に関して一度嘘をつくと、その後に相手から信じて貰うことは困難なのだ。

 鳩山政権はまだ「不慣れと力不足」の範疇だったが、菅、野田の二政権がやってきたことは有権者に対する悪質な「裏切り」だった。

 特に、野田首相の消費税率引き上げへの暴走は、菅内閣の震災及び原発事故への対応の拙さと共に、民主党にとって「致命傷」だったといっていい。

信念よりもポストに使われる海江田新代表

 それにしても、惨敗からの再生を目指す民主党の新代表が海江田氏だとは、民主党の失敗に対してあまりに象徴的であると同時に、多少なりとも民主党に期待する有権者から見ると「がっかり」ではなかろうか。

 筆者は、3年前の総選挙時に東京一区在住で、海江田氏に投票した有権者の一人として、自らの不明を恥じるものである。

 首相だった菅直人氏にいびられて国会で思わず男泣きした経産相時代の海江田氏については、ビジネスマンでも政治家でも、二流以下の人物にあっては自分の行動をコントロールできない時があることを理解するなら、些か情けないと思う感情は禁じ得ないが、「許してもいい」と思う。

 特に、今回の代表は、民主党の葬儀委員長のような役割だ。泣き顔が似合う海江田氏は適任かも知れない。

 彼の震災後の原発事故対応については、追及すべき問題があるかも知れないが、この問題は代表選と切り離して検証することが適当だろう。原発事故に対する民主党政権の対応については、後の教訓のためにも、自民党政権として、改めて検証し直す必要があると思う。

 政治家としての彼を許しにくいのは、経済政策に関する変節だ。もともと消費税率引き上げに反対の立場で選挙を戦って当選し、民主党の代表選でもそのように主張した。にもかかわらず、野田政権になって民主党が消費税率引き上げに向けて動き出した時、彼は、党内の議論にあって消費税率引き上げに反対する論陣を張るのではなく、代表選に負けたことを理由にして、自らが消費税率引き上げに向けた調整役を演じたのだ。

 彼は、信念よりもポストに使われる「海江田便利」なのである。

(3)
 推察するに、海江田氏は、国民のためによかれと思う政策よりも、自分の地位や立場の方が大事な人物なのだろう。今にして思うなら、政策はバラバラで無定見の選挙互助会に過ぎなかった民主党の最後の代表にふさわしい人なのかも知れない。

 海江田氏は、自民党の安倍総裁が掲げるデフレ脱却のための金融緩和に対して、さっそく批判的な意見を述べている。かつての彼の立場は民主党の議員としては、どちらかといえば「親ビジネス」ではなかったかと思うのだが、早速、何でも反対の野党の党首的な言辞を弄している。

 尚、海江田氏は、今回、小選挙戦で敗れたが、比例選で復活当選した議員だ。投票しないことで彼に対する「罰」のメッセージを送ろうとした東京一区の有権者は、さぞかしがっかりしていることだろう。もちろん、法的、制度的には立派に衆議院議員なのだが、小選挙区で信認を得られなかった彼がリーダーシップを発揮することができるか否かは大いに疑問だ。

人材面でも前途多難の民主党

 では、海江田氏への対抗馬となって代表選で敗れた馬淵澄夫氏をどう評価すべきか。

 個人の資質として、馬淵氏は、海江田氏のような自己の地位だけにこだわる変節漢ではなさそうだ(筆者は、前回の民主党代表選の候補者の中で馬淵氏が一番いいと思っていた)。

 しかし、馬淵氏は、消費税についてどう考えているのだろうか。彼は、現状での消費税率引き上げに対して強い反対の意見を持っていたはずだ。しかし、民主党は、あの何ともダーティーな「三党合意」の枠組みに乗って、馬淵氏ら党内の消費増税慎重派がつけようとした経済成長に関する条件も弱体化させて、消費税率引き上げに向かって進んだ。

 率直にいって、自分の政治的信念を曲げずに済む立場から政治活動を行うためには、仲間を募って、民主党をいったん離党した方がいいのではなかろうか。新党を立ち上げるのでも、主張を同じくする別の党派に合流するのでもいい。仲間を救い、人材として活かすためにも、倒産企業の「再建」よりも、「起業」や「集団転職」の方がいいのではないか。

 馬淵氏は、民主党を立て直して、有権者にとって自公政権に対する代替的選択肢になりうる勢力の再構築を目指そうとしているかも知れないが、総選挙の結果を見ると、民主党議席と得票は、「日本維新の会みんなの党」を下回っており、既に「第二の勢力」ではない。

 もう一つ、今回の民主党代表選では、実際に立候補した海江田氏、馬淵氏以上に、党内の期待が高かった細野豪志氏の立候補辞退が興味深かった。

(4)
 今回の彼の行動を見ていると、かつて「社会党のプリンス」と呼ばれた横路孝弘氏が、社会党凋落の過程にあって、仲間から期待されながら、党首就任から逃げ続け、結局、その後にたいした実績をあげることが出来ずに、いわば「不発弾」のような期待はずれの政治家人生を送ったことを思い起こさずにはいられない。

 そもそも前回の代表選で彼は立つべきだったと思うのだ。仲間達が大いに困り、その仲間に期待されている時に、打算を背景にその期待から逃げるような人物に、国にあって重要な役割を担って欲しいとは思えない。

 今回、海江田氏が代表に選ばれたことにもガッカリしたが、細野氏が代表選に立たない人物であることにも失望した。人材的に彼が「若手のホープ」だというのでは、民主党の前途は多難だ。

社会民主主義」的考え方の受け皿としての価値

 ところで、仮に民主党の「再生」(≒将来の党勢回復)が可能であるとして、これを期待することに価値が、あるのか、ないのか。

 筆者は、「嘘つきの党」に再生の価値はないしその可能性もないとアタマで思う一方で、現実的な問題として、一つには、今回落選した候補者も含めて、民主党内で政治家として有効なトレーニングを積んだ「人材」の何人かを惜しいと思う。

 今回総選挙での日本維新の会の人材不足を見るとよく分かるが、有権者にとって役に立つ政治家になり得る人材の発掘と育成は、簡単にできる仕事ではない。

 まだ民主党内にいる有能な人材は、有効に活用しなければもったいない。但し、彼らは、必ずしも民主党という枠組みと汚れた看板の下で働く必要はない。

 いわゆる第三極の何れかの政党に移ってもいいだろうし、政策的主張が合う政党が当面なければ、民主党をスピンアウトして新党を作ってもいい。現実的な問題として、つい最近まで大勢力を誇った民主党の金庫にはまだお金が潤沢にあるはずだから、人が急に離れていかないのかも知れないが、政治家は、政策的信念を有権者に分かりやすい形で真っ直ぐに訴えることが重要ではないか。

 もう一つの価値は、日本における「社会民主主義」的考え方の受け皿としてだ。

「社会」と名の付く思想には、ソ連・東欧の社会主義政権崩壊以来ダメなものというニュアンスがつきまとうので、社会民主主義といわずに、「富の再分配に積極的な立場」と丁寧にいう方がいいのかもしれないが、自民党日本維新の会みんなの党も、今のところ社会保障費を抑制し、富の再分配の規模を押さえ込む方向に力が入っているように見える。バランス上、これに対抗する勢力は必要だと思える。

(5)
 また、民主党は「コンクリートから人へ」というかつてのキャッチ・フレーズに象徴されるように、公共事業などによる「メリットを受ける人が偏った再分配」ではなく、減税や給付金などによる「薄いが広い公平な再分配」を指向する考え方を一部に持っていた。安倍新政権が、「国土強靱化」を名目に公共投資に傾斜する態度を見せていることを思うと、この立場が、民主党と共に葬り去られるとすれば残念だ。

 しかし、「嘘つき」の前科を持つ民主党に、こうした立場を有効に代表し、再び国民にとっての選択肢となることができるだろうか。これは、社会心理学的な問いであるが、「人材の活用」と「公平な再分配」の実現は、政策的な主張とこれまでの経緯(政策のブレの少なさ)などを見ると、たとえば、みんなの党のような勢力が選択肢に育つ方が、国民にとっては幸せなのではないだろうか。

民主党の再生は容易ではない。「海江田葬儀委員長」の選出を見ていて、そう思わざるを得ない。
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