私の視点:2012衆院選/4 がまんが問われる=論説委員・野沢和弘{毎日新聞}

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私の視点:2012衆院選/4 がまんが問われる=論説委員野沢和弘
毎日新聞 2012年12月08日 東京朝刊
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▼全文引用

 人生には予測できないことが度々起きる。リスクに備えるにはどれだけ個人でお金をためても足りないので、みんなで少しずつ出し合って安心できる仕組みが作られてきた。年金、医療、介護などの社会保障制度である。

 ところが負担する人が減り、受給者が増え続けているため、制度は持たないのではないかと不安が広がっている。飛躍的な経済成長でもしない限り「負担する人を増やす」か「負担額を増やす」か「受給者を減らす」か「受給額を減らす」しかない。

 保険料や税金などの負担増はこれまでやられてきたが、現役世代の生活も楽ではなく、負担すらできない非正規雇用の人も増えている。受給額抑制の声が高まっているが、政治にとってハードルは高い。高齢者ほど投票率が高く、高齢層は年々増えていくからだ。

 若者の雇用改善、出産や子育てをしながら働く女性の支援が出生率の向上につながることを欧州諸国は示しているが、生まれた子が社会を支える側になるのは20年くらい先なので、財源を投じてもしばらくは効果がない。

 地道に考えると愉快なことはあまりない。かくして社会保障批判は国民の不安を刺激し、野党にとっては魅力的な政府攻撃の材料になってきた。「いっそチャラにして作り直せ」と勇ましい声も聞かれる昨今である。しかし、どんな制度改革も負担する人が減り、受給者が増える構造が変わらない限り、いつかは破綻する。

 無駄をなくすのは当然だが、それで足りるだろうか。経済成長も簡単なことではない。「官僚にだまされるな」と怒るのもいいが、よく考えてみよう。進むべき道はわかっているのに何年も足踏みを続け、ますます泥沼に足を取られているように思えてならない。

 借金をして社会保障の安心を先食いする時代は終わった。将来のために今をどのくらいがまんできるか。問われているのは有権者である私たち自身だ。
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