{日米同盟と原発}第7回「油の一滴は血の一滴」 (4)都会へ電気 田舎へカネ<東京新聞>
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【特集・連載】日米同盟と原発
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第7回「油の一滴は血の一滴」 (4)都会へ電気 田舎へカネ
2013年3月26日
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▼全文転載
◆電源三法が成立
石油ショックの混乱が冷めやらぬ一九七三(昭和四十八)年十二月十三日の参院予算委員会。首相の田中角栄は「電気の消費者からいただいておる税金は発電所のある地域に交付しなければメリットがない。地元が恩恵を受けられることを考える」と言い切った。
資源の乏しい日本の弱さが露呈し、代替エネルギーの必要性が叫ばれていた。その一つとしての原発を、国策で推進していく決意表明だった。
小林の長男で現在七十二歳の正明は「父の頭には広島と長崎の原爆があり、問題外という感じだった。ところが、松根さんは会社の費用で研究スタッフを置いてもいいと言う。そこまで本気なら考えようとなった」と振り返る。
当時は高度成長期のまっただ中。若者は職を求め都会へ流れ、地方は疲弊する一方だった。日本海に面する柏崎も開発から取り残されたそんな典型的な田舎の一つで、市長に就いた小林も新たな地域振興策を探っていた時だった。
小林は隣接する刈羽村にまたがる荒浜砂丘への原発誘致に傾く。日本海沿いに広がる一千万平方メートルに及ぶ荒れ地だった。六年後の六九年、小林が 主導する形で市議会は柏崎刈羽原発の誘致を決議したが、反対運動で立地交渉が難航。まさにそんな時、地元出身の田中が首相に就任した。
長男の正明は「父は週に一回、年に五十回ぐらいは東京・目白の田中邸へ陳情に通っていた」と明かす。
小林が訴えたのは「原発を受け入れる地域の振興策を国が後押ししてほしい」というものだった。戦前、満州中央銀行に勤めた小林は数字に強かった。 百万キロワットの原発一基が運転した場合、電力消費地は年二十三億円の税収があるが、立地地域は八千五百万円しかないという独自試算を示し、田中に迫った こともある。
実は、その田中も首相就任前に上梓(じょうし)した「日本列島改造論」で「地域社会の福祉に貢献し、住民から喜んでもらえる福祉型発電所づくりを考えなければならない」との持論を展開していた。
田中がモデルとして描いていたのはドライバーが負担するガソリン税で財源を捻出し、地方の道路整備に回す「道路整備費の財源等に関する臨時特別措置法」。田中自身が五三年六月に議員立法で成立させた法律だった。
当時、首相秘書官だった小長啓一は「都会で集めた税金で原発など電源関連の特別会計をつくるというのは、道路の成功体験があった田中さんの発想。小林市長が望む振興策が一致して形になったのはまさに石油ショックがきっかけだった」と話す。
電源立地自治体の要望に沿って道路や港湾、公民館などの建設事業に国が交付金を出す仕組みは、通産省(現・経済産業省)資源エネルギー庁が考え た。当時、電源三法を起案したエネ庁係長で、現在七十一歳の工藤尚武は「他省の反発もあったが、田中さんの肝いりでもあり、納得してもらった。来年の通常 国会に出すという指示で、突貫工事だった」と証言する。
法案は翌七四年三月に国会提出。石油ショックの混乱の最中、わずか三カ月で成立する異例の速さだった。
全七基にも及ぶ柏崎刈羽原発は七八年十二月、着工する。市長小林が理研ピストンリング会長の松根から誘致を打診されてから十五年、田中はすでに首相の座になかった。巨額の原発マネーは二十五年以上にわたり、今も地元を潤し続けている。
「田舎が都会に電気を送り、都会が田舎にカネを送る」電源三法交付金。それは、戦後日本の高度成長から取り残された過疎地で育った田中と小林の政治闘争でもあった。
秘書官だった小長は、田中が初対面の時に語っていた言葉を今も覚えている。
「雪と言えば、川端康成の小説のようなロマンチックな世界だと思っているだろうが、俺は違う。生活の闘いなのだ」
<電源三法交付金> 販売した電力に応じて電力会社に課税する「電源開発促進税法」、特別会計で扱うための「特別会計に関する法律」、発電所の立 地・周辺自治体への交付金制度を定めた「発電用施設周辺地域整備法」の総称。電源開発促進税は電気料金に転嫁されるため、実質的には国民が負担している。
当初は使い道が道路や図書館などの交通や公共施設の建設事業に限られていた。2003年度の改正で、高齢者福祉や育児支援、地域おこしなどに使え るようになり、ばらまき色が強まった。交付期間も運転開始までとなっていたが、今は立地調査が始まった時点から運転終了までに拡大した。財源や使い道など で国会のチェックを受ける一般会計と異なる特別会計のため、経済産業省の省益温存との批判もある。
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