週のはじめに考える 深まる米保守派の憂鬱<中日新聞 CHUNICHI WEB>

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【社説】週のはじめに考える 深まる米保守派の憂鬱
2012年11月11日
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▼「中日新聞 CHUNICHI WEB」から引用

 オバマ政権が信任された米大統領選挙は、民主党の勝利であり、共和党の自滅でもありました。米保守派の再建は容易ではなさそうです。

 民主党員ながらブッシュ前共和党政権で駐日大使を務めたシーファーさんが、四年前の大統領選挙の際に懇談で述べていました。

 「どちらの党候補者であれ、予備選で右に左に振れたとしても、最終的には中道寄りの立場に戻らなければなりません。勝つには幅広い支持が欠かせませんからね」

 奇(く)しくも、共和党のロムニー氏が今回の選挙で試みた戦術に重なります。

「謝罪無用」の世界観

 ロムニー氏の戦いは、自らの保守性を強調することから始まったといえます。かつて「米国との契約」で保守革命を担ったギングリッチ元下院議長、宗教右派の支持を集めていたサントラム元上院議員らを相手の予備選だった以上やむを得なかったのでしょう。

 選挙に合わせて出版した著書「ノー・アポロジー(謝罪無用)」で、ロムニー氏はその簡明な世界観を披歴しています。

 世界は、米国の圧倒的な軍事力を背景に平和を享受してきた。現在、その指導的地位を窺(うかが)う戦略を持つ勢力が三つある。軍事力を膨張させる中国。旧ソ連再興を目論(もくろ)むロシア。ジハード(聖戦)を挑み続けるイスラム過激派だ。米国は善であり、その力は世界にとっても善である。従って米国はその優位を維持しなければならない、というのです。

 建国以来、米国民感情の深層を流れる「アメリカ例外主義」を端的に表したものでしょう。

 政治家ロムニー基本的立場は当初、より穏健でした。カバサービス・エール大学元准教授は、共和党の変遷を記した著書「支配と崩壊」の中で、ロムニー氏が政治家として理想視した父ジョージ・ロムニー氏が党穏健派の代表格だったことを指摘しています。

割れた「ロムニー像」

 ジョージ・ロムニー氏は、デトロイトビッグスリーに対抗する自動車会社を成功させ、一九六〇年代ミシガン州知事を務めましたが、実業家としての経験から労働者、黒人層への配慮は厚く、社会政策面で「大きな政府」を志向した、とされます。

 ジョンソン民主党政権が「偉大な社会」と呼ばれたリベラル政策を推進した時代でした。保守派バリー・ゴールドウォーター氏とはそりが合わず、保守色が支配した党全国委員会に対抗して、穏健派の知事でつくる共和党知事協議会を結成したほどです。

 ロムニー氏が、上院選挙や知事選挙で妊娠中絶や医療保険制度に関し保守派とは一線を画し、民主党との超党派的立場を貫いたのもその影響だったといいます。

 今回の選挙では割れたままの二人のロムニー像が一つに結ばれることは最後までありませんでした。それは深刻な分裂を抱える共和党の姿そのものでもあります。

 佐々木毅学習院大教授は、二十世紀後半のアメリカ保守思想の流れを大きく四つに分けています。

 一つは、ロックフェラー財閥やキッシンジャー国務長官に代表される東部穏健派です。二つ目は、レーガン元大統領に象徴される中西部、南部のグループで反東部で知られます。第三は、建国以来根強いキリスト教右派勢力。そして第四は、ブッシュ前政権時代に名を馳(は)せたネオコン新保守主義)です。道徳的保守主義と、経済的自由主義が保守の二大原則とされます。

 冷戦終結後台頭したイスラム原理主義、そして二〇〇一年の米中枢同時テロをきっかけに保守勢力はネオコンの下で大同団結したかのような観を呈しました。

 その一極主義的政策がもたらした国家的疲弊、未曽有の経済危機への対応が問われた前回の選挙で、共和党マケイン候補はやはり「強い米国の再興」を掲げましたが、すでに求心力は見られず、副大統領候補に起用されたペイリン氏を中心とする大衆迎合主義的な活動が残されただけでした。

楽観主義は戻るか

 今回、大きな影響力を発揮した草の根の茶会運動は、その流れを汲(く)むものでしたが、大統領選挙の予備選においても、議会選挙においても推薦を受けた候補の選挙戦は惨憺(さんたん)たるものでした。米国の保守文化に見られる反知性主義を思わせる現象すらありました。

 保守派が今も理想的指導者とするレーガン元大統領には、減税と小さな政府で米国は豊かになる、との楽観主義を国民の中に呼び起こす力がありました。

 グローバル社会に相応(ふさわ)しい二十一世紀型の指導者像を、米保守派の立場からどう描き、つくりだしてゆくのか。深まる憂鬱(ゆううつ)を脱するまでには、今しばらく時間がかかりそうです。



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