<NEWSポストセブン>原発事故対応が正しくなかったことはGEの責任と大前研一氏

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原発事故対応が正しくなかったことはGEの責任と大前研一
2012.09.18 16:00
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▼全文引用

 福島第一原発事故について、政府事故調や国会事故調などの最終報告書が出そろい、さらには東京電力が事故発生後のテレビ会議の録画映像を公開するなど、一見すると原因究明の動きが一歩進んだかのように見える。だが、各事故調やマスコミがほとんど触れていない「責任」があると、大前研一氏が指摘する。原発原子力政策に精通する大前氏が詳説する。

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 東京電力福島第一原発事故発生直後の社内のテレビ会議を録画した約150時間分の映像を公開し、現場の緊迫した様子や本店との混乱したやりとりなどが毎日のように報道された。

 しかし、それにはまったく意味がない。なぜなら、あの映像は「船頭多くして船山に登る」の実例にすぎず、今後の教訓を見いだすのは難しいからである。また、今になって事故対応の手順が正しかったのか、当時の菅直人首相が過剰介入したのではないか、といったことを詮索しても始まらない。手順は正しくなかったし、菅首相が余計なことをたくさんやっていたのは明らかであり、どれだけ検証しても、それ以外の結論は出てこないのだ。

 そもそも事故対応が正しくなかった点に関して言えば、GE(ゼネラル・エレクトリック)の設計ミスという問題が大きい。

 福島第一原発の1号機と2号機は設計から製造、建設、運転マニュアル、オペレーターの訓練まで、何もかもGEだ。GE以外は事実上、下請けとして関与しただけである。3号機は東芝、4号機は日立製作所が主幹企業だが、やはりGEの設計が基本でオペレーターの訓練もGEが行なった。

 となると、私が近著『原発再稼働「最後の条件」』(小社刊)で指摘したように、炉心で冷却水の喪失が起こった場合に作動するECCS(非常用炉心冷却系)や、原子炉の圧力が上昇した場合に原子炉の蒸気を水に戻して炉心の圧力・温度を下げるためのIC(非常用復水器)など、いくつもの安全装置がことごとく機能しなかったことや結果的に事故対応が正しくなかったことはGEの責任である。

 ところが、このGEの設計ミスについて、どういうわけか、どの事故調査委員会も指摘していない。政府や東電は「想定外の巨大津波」が来たことを事故原因にしている。しかし、それはエクスキューズにならない。「安全装置は、どのような事態が起きても機能しなければならない」という発想がGEの設計者になかったから事故が起きたのである。この点がもっと追及されて然るべきだと私は思う。

 機械を操作・運転するオペレーターは失敗するものであり、設計者はそれを前提に設計しなければならない。

 たとえば、1994年に名古屋空港で起きた中華航空エアバス機の墜落事故では、着陸時にパイロットが誤って着陸のやり直しをする「ゴー・アラウンド」レバーを操作。自動操縦が機体を上昇させようとした。パイロットは自動操縦を解除しないまま手動で高度を下げようとしたため、この操作にコンピュータが反発して水平尾翼が機首上げ方向に限界まで移動する。その後、機体が急上昇して失速し、墜落炎上。乗客乗員264名が死亡、7名が重傷を負う大惨事となった。

 パイロットがコンピュータのプログラミングと逆の操作をしたため、コンピュータはパイロットが誤った操作をしていると判断し、自動操縦と手動操縦の制御コンフリクト(競合)が起きてしまったのである。これはパイロットのミスよりも、設計思想上の人間工学的な間違いのほうが大きな原因である。本来、そういう場合は自動操縦と手動操縦のどちらかを優先すべきであり、エアバスは後に操縦桿を手動操作すると自動操縦が解除されるように設計を変更した。

 1979年に起きたアメリカ・スリーマイル島原発事故も、非常警報が出た時にオペレーターが動転して判断を誤り、自動のままにしておけばよかったのに手動に切り替えた。そのため再び非常警報が出てさらに動転し、ECCSを手動で止めてしまった。その結果、冷却水が失われて炉心溶融を起こしたのである。

 このように大事故の大半はオペレーターが動転して起きているが、そういう事態を想定していなかったのは設計ミスにほかならない。福島第一原発事故についても、前述した安全装置が機能しなかったことは明らかに設計ミスであり、それを放置したGEの責任は免れない。

※SAPIO2012年9月19日号



(ブログ)福島原発事故と放射能汚染 そしてチェルノブイリ地方の現状