特集ワイド:原発ゼロの世界/上 存続派の「まやかし」<毎日新聞

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特集ワイド:原発ゼロの世界/上 存続派の「まやかし」
毎日新聞 2012年08月27日 東京夕刊
http://mainichi.jp/feature/news/20120827dde012040008000c.html
(全文引用)

(1)
 「実現不可能」「経済がむちゃくちゃになる」。経済界がそう警告する「原発ゼロ」が現実味を帯びてきた。野田佳彦首相ら政府が検討に入り、国民世論の多数を占めつつある。もちろん不安はある。だが、そこに存続派が忍び込ませたウソはないか。上下2回にわたり「原発ゼロの世界」の可能性を検証する。【小国綾子】
 ◇依存度15%「中庸」案…実質“フル稼働”、実現性なし
 ◇原子力は安い電気…事故リスク抱え、経済性なし

 ■原発比率の落としどころ

 「国民が知りたいのは原子力の比率をどうするか、などではない。再稼働をするかしないか、するならば、どこの原発を動かすのかという点です。2030年に0%、15%、20〜25%という政府の選択肢の示し方は、さも15%が中庸であるかのように見せかけ、世論を原発存続へ誘導しようとしたとしか思えない」。そう憤るのは、「原発のコスト」の著書のある大島堅一・立命館大教授(環境経済学)だ。

 実際、政府は原発比率の落としどころとして15%を模索していたようだ。ところが、その政府が実施した討論型世論調査(=DP。無作為抽出して電話調査した6849人のうち、2日間の討論会に参加してアンケートにも答えた285人が対象)では、0%を支持する人が討論前の41%から47%へと増えた。

 さらにパブリックコメント(意見公募)に寄せられた約9万件のうち約7000件を分析したところ、「ただちに原発ゼロ」が81・0%、「段階的にゼロ」が8・6%で、「ゼロ」派は合計89・6%に上った。まるで原発ゼロに向けて世論の“地殻変動”が起きているかのようだ。

 そもそも政府が有力視していた15%は「中庸」と呼べるような案だったのか。

(2)
 脱原発を掲げるNPO法人「環境エネルギー政策研究所」の松原弘直・主席研究員は「この15%案は、(6月に改正した原子炉等規制法にある)『40年廃炉ルール』に沿ったものと言われていますが、実は“原発ゼロを緩やかに実現する案”などではありません」と言い切る。「原子力15%とは、既に稼働中の大飯に加え、40年廃炉ルールに抵触しない浜岡や福島第2、福島第1の5、6号機を再稼働させ、さらには建設中の島根原発3号機(松江市)や大間原発青森県大間町)まで動かし、しかも設備利用率は震災前より高い70%を想定しない限り実現しない数値なのです」。つまり、ほぼ“フル稼働”させねばならないのだ。

 15%案や20〜25%案について、もう一つ松原さんが問題視するのは、使用済み核燃料の処理法だ。0%案では再処理せず地中に埋設する「直接処分」が明記されているが、15%、20〜25%の両案では、プルトニウムなどを取り出し再び燃料に使う「再処理」と「直接処分」を両論表記し、結論を先送りしている。

 しかし、である。使用済み核燃料を一時保管する全国各地の使用済み燃料プールは、容量約2万トンのうち1万4200トンまで埋まっている状態だ(昨年9月末時点)。青森県六ケ所村の再処理工場にある燃料も貯蔵プール容量の9割を超えている。

 松原さんが言う。「使用済み核燃料の発生を可能な限り止め、核燃料サイクルを即時中止すべきです。15%案では使用済み核燃料はさらに増え続け、廃炉までに要する時間も延びる。つまり、リスクがより長く続くことを意味しているのだから」

 討論型世論調査パブリックコメントで「原発ゼロ」への支持が増えた背景には、「安全性の確保」重視の姿勢に加え、こうした数字のうさんくささを国民がかぎつけ始めたからだろう。

 ■料金値上げの「脅し」

(3)
 「電気料金が上がり、家計を直撃する」。「原発ゼロ」にはそんな脅しがあるが、どうなのか。

 政府の試算では、現在月額約1万円の電気料金を払う2人以上の世帯をモデルにすると、30年時点の電気料金の値上がり幅は▽0%案で月0・4万〜1・1万円▽15%案で月0・4万〜0・8万円▽20〜25%案で月0・2万〜0・8万円。原子力の比率を下げるに従って電気料金が上昇するのは、石油などの化石燃料エネルギーに依存する分、燃料費がかさむのと、再生可能エネルギーの普及には最大で約33兆円の設備投資が必要と見込まれるからだ。経済産業省は長い間、各電源の1キロワット時当たりの発電コストについて、原子力5・3円、火力10・7円、水力11・9円とし、「原子力が最安」と説明してきた。しかし、大島教授は「原子力は安いというのは誤り」と断言する。

 「原子力の発電コストには、燃料費など発電に直接要するもの以外に、研究開発のためのコストや原発の立地対策のための政府の補助金、つまり政策コストを含めるべきです。そうすると、私の試算では過去の実績で1キロワット時10・25円になる。現状は、補助金という形で、国民の税金によって原子力コストの一部を肩代わりしているだけです。それどころか、事故リスクを含めればどの電源よりも高くつく」と大島教授。

 原子力委員会は昨年11月、福島第1原発の事故の損害賠償額試算などをもとに、事故リスクのコストを試算。それによると、損害賠償額は4兆9936億円。大島教授は「この試算ですら、損害額や除染費用をまだ過小評価している。原子力に経済性がないことは明白です」と指摘する。

(4)
 松原さんは「エネルギー選択をするに当たって、最も大切なのは原発事故リスクをどう評価するかだ」と言う。「電気料金や経済への影響についての政府の試算や経済団体の試算は全て、もう原発事故が起きないことを前提にしている。けれども、これは『安全神話』に過ぎません」

 政府の示す電気料金の値上がり幅についても「電力システムの改革による電力自由化や価格決定方式の見直しに加え、従来のような電気の無駄遣いをやめれば、試算ほどの料金負担にはならない。たとえ値上がりするとしても、皆が広く薄く負担することが、自分たちの安全安心につながっていくのです」と語る。

 エネルギー政策の岐路に立つ日本。次回は原発ゼロで「経済がダメになる」「再生可能エネルギーは非現実的」という声を検証する。

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 ◇政府の三つの選択肢の考え方

原発依存度         0%案           15%案        20〜25%案

(2030年)

再生可能エネルギー比率   +25%          +20%        +15〜20%

(2010年比)

電気代の値上げ幅      4000〜1万1000円  4000〜8000円  2000〜8000円

(月1万円の家庭で)

使用済み核燃料の処理方法  直接処分          再処理も直接処分もありえる

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