【社説】2012年7月27日 最低賃金 「安全網」の全体見直せ<中日新聞

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【社説】2012年7月27日
最低賃金 「安全網」の全体見直せ
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2012072702000091.html

(全文引用)

 

 二〇一二年度の最低賃金の引き上げ幅が決まった。最低賃金は労働者を守る安全網だが、生活保護支給額を下回る「逆転現象」がなかなか解消できない。是正には社会保障全体の見直しが必要だ。

 最低賃金は時間あたり平均七円引き上げ、全国平均で七百四十四円にする。国の中央最低賃金審議会が毎年夏に目安を決める。

 働く人が得る最低額を法律で定めている。全労働者が対象だが、主に非正規で働く人の賃金に反映される。国の決定を受け各都道府県の地方審議会が個別に地域の最低賃金を決める。

 問題は、その手取り収入が生活保護支給額を下回る逆転現象である。額に汗して働くより生活保護を受給した方がいいと考え、働く意欲をなくすモラルハザード(倫理観の欠如)が起こりかねない。

 毎年、額を引き上げて解消に努めているが、生活保護の支給額も増加が続く。働く人には年金や医療などの社会保険料アップの影響もあり、現在十一の都道府県で逆転現象が残る。今回の引き上げでも一部でまだ解消できない。

 経済情勢から引き上げには限度がある。民主党政権は二〇年に千円を目指すが、実現は厳しい。いたずらに上げては逆に雇用を減らし失業を増やす結果になる。

 一方、国は二百十万人を超えた生活保護受給者の支給額の見直し作業に入っている。だが、支給額引き下げありきでは困る。

 現在でも受給者はぎりぎりの生活を送る。効率化して無駄な支給を減らす必要はあるが、生活をしっかり支える最後の安全網の役割は重要である。

 逆転現象はまだある。保険料をまじめに払って受け取る年金より、生活保護支給額が上回っては不公平感が募る。

 非正規が働く人の四割近くになり、働いても生活は苦しい。そもそも仕事を安定して得ることが困難である。老後に十分な年金を得られない不安もなくならない。

 本来は賃金や年金で生活を支え、生活保護には最後にたどり着くはずだが、実際はそれに多くの人が頼っている。支えるべき社会保障制度の順番が逆だ。これでは信頼される安全網とはいえまい。

 雇用や賃金を増やす経済成長が欠かせない。同時に安心して暮らせる年金制度、生活保護から抜け出せる再就職支援など重層的な改革が要る。社会保障制度全体を見渡し安心を支える安全網に再構築する知恵こそ求められている。