{日米同盟と原発}第7回「油の一滴は血の一滴」 (5)「原子力ムラ」の誕生<東京新聞>

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日米同盟と原発
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第7回「油の一滴は血の一滴」 (5)「原子力ムラ」の誕生
2013年3月26日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/arrandnuc/list/201303/CK2013032602000234.html
▼全文転載


◆転向した学術界

 「首相の犯罪」で田中角栄が逮捕されたロッキード事件から三年後の一九七九(昭和五十四)年。日本列島で運転する原発はついに二十基の大台に乗り、原発大国への道を歩み始めていた。

 その勢いは、田中が米大統領ニクソンとのハワイ会談で購入を決めた一万トンもの米国産濃縮ウランと帳尻を合わせるかのようだった。電源三法交付金による巨額の税金が立地自治体に流れ込み、立地交渉を後押しした。

 当時、東京電力原子力開発本部の中堅社員で、後に柏崎刈羽原発所長を務めた現在七十五歳の宅間正夫は「それまでは電力会社が札束で地元を説得する形だったが、法的に国が関与するのでやりやすくなった」と話す。

 学術界の役割も見逃せない。戦後の原子力研究再開で、大学の工学部や理学部などでは専門の教育が行われ、そこから巣立った人材がこのころ、電力会社の中核を担うようになっていた。

 中部電力で原子力を担当した現在七十九歳の元副社長、蓮見洸一もその一人。東京大工学部の電気工学科で原子力を学び、五六年入社した。当時、中電は原発がなく、配属されたのは火力部に誕生したばかりの原子力課だった。

 「国会図書館に通って、米国から送られてくる原子力情報を読んだり、翻訳したりしていた。同僚から勉強するだけで給料もらえていいなあ、なんて思われていたかもしれない」と、当時を振り返る。

 蓮見は入社三年目の五八年、他電力の若手技術者らとともに三カ月間の渡米研修に参加した。招待したのは日本に原子炉の売り込みを狙っていたゼネラ ル・エレクトリック(GE)とウエスチングハウス(WH)の二社。参加した日本原子力発電元常務で現在八十六歳の板倉哲郎は「最先端の原子力技術を勉強で きた」と話す。

 こうして専門知識を蓄えた技術者らが原発ラッシュに沸く七〇年代、立地交渉の最前線で説明役を務めることも少なくなかった。

 中電浜岡原発の建設が進んでいた七〇年代初頭。地元、静岡県浜岡町(現・御前崎市)で、中電の住民説明会に出席した現在七十一歳の伊藤実は「近所 には大学を出た人がほとんどいなかった。みんな、頭のいいエリートが言うのだからきっと安全だろう、という感じで聞いていた」と証言する。

 原発が増えるにつれ、電力会社や原子炉メーカーは人材養成を大学に求め、大学側も学生の就職の受け皿として原子力業界に期待を膨らませた。

 「科学者の国会」と呼ばれる日本学術会議は七一年六月、「大学関係原子力研究将来計画」をまとめ、政府に勧告した。大学での原子力関連の講座拡充 や研究炉建設などに、百六十四億円の予算措置を求めた。十五年ほど前、原子力の平和利用は核兵器の製造につながるなどとして「時期尚早」と反発した学術会 議の面影はみじんもなかった。

 国、産業界、学術界の三位一体で、今に続く原発推進の「原子力ムラ」が出来上がった七〇年代。そんな風潮に失望し、学術界を飛び出した市民科学者が誕生するのもこのころだった。

 戦時中の原爆製造計画「ニ号研究」にも携わった元立教大教授武谷三男(63)や元東大原子核研究所研究員の高木仁三郎(37)らが七五年九月に原 子力資料情報室を設立。これまで立地自治体にとどまっていた反原発運動を科学的根拠を示しながら支援し、全国的な市民運動へと広げる役割を果たす。

 田中政権をきっかけに完成した日本の原子力ムラ。ところが、それを最も望んだはずの米国がその推進体制を足元から揺さぶることになる。七九年のスリーマイル島原発で起きたメルトダウン(炉心溶融)事故と、核不拡散政策を掲げた新大統領カーター(52)の登場だった。

 この特集は社会部原発取材班の寺本政司、北島忠輔、谷悠己、紙面のレイアウトは整理部の岩田忠士が担当しました。シリーズ「日米同盟と原発」第8回は4月下旬に掲載予定です。


 
 
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