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脱原発に耳を傾けつつ 東京都知事に舛添氏【社説】
2014年2月10日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014021002000195.html
▼全文転載
景気好転の兆しの中で、東京都民は大きな変化を望まなかった。しかし、再びフクシマを顧みる好機にはなった。その積み重ねが脱原発の灯を広げる。
徳洲会グループからの五千万円の提供問題が発覚し、猪瀬直樹氏が知事を辞職したのは去年の暮れ。投票日まで一カ月半という慌ただしい東京都知事選だった。
候補者の出馬表明も正月をまたぎ、論戦が尽くされたとは言い難い。三年間で三度目となった首都決戦はうんざり感も漂い、知名度争いに終始した面も否めない。
◆景気が選択を左右
まずは足元の暮らし向きを落ち着かせたい。安倍政権を担ぐ自民、公明両党の支援を受けた舛添要一氏が選ばれたのは、そんな思いが先行したからかもしれない。
最近は失業率が下がり、有効求人倍率が上がってきた。好条件の雇用機会を求め、東京への流入組も増えている。賃金底上げの期待がかかる春闘も幕を開けた。
一方で、四月には消費税増税が控える。景気復調の矢先に、経済政策アベノミクスを手がける安倍政権とにらみ合うような知事では不安だ。そんな心理と論理が働いたとも読み取れる。
かつて厚生労働相を務めた豊富な経験に、一票を託した都民も少なくないだろう。一月の本紙の都民世論調査で、重視する政策分野として医療や福祉が一番だったことからも推測できる。
地域では高齢化が速度を上げて進み、医療や介護の手だてが追いつかない。共働き家庭を支える子どもの保育環境も貧弱だ。非正規労働の待遇改善も見通せない。
好況の恩恵にはあずかりたいし、喫緊の課題は早急に片づけてほしい。それが都民の素直な心情なのだろう。閉塞(へいそく)感が拭い切れない時代だからこそ、目の前の利害得失に関心を奪われがちになったとしても無理はない。
「東京を世界一の都市に」と売り込み、約束したのだ。どんなモデル都市を地方へ、世界へ発信するのか。手腕が厳しく問われる。
バラ色の美辞麗句を振りまいた舛添氏と、後ろ盾になった安倍政権。その狙い目は、都民の意識をフクシマからそらすことにあったという見方もできる。
「国家存亡の問題」として原発ゼロを掲げ、細川護熙氏が名乗りを上げた瞬間の狼狽(ろうばい)ぶりはその証左だ。小泉純一郎氏の後押しとあって衝撃が広がったようだ。
政権からは「エネルギー政策は国政の課題だ」と批判する発言が相次いだ。原発を「重要なベース電源」とし、再稼働する考えを示したエネルギー基本計画の閣議決定も先送りした。
原発を堅持したいらしい政権にとって、その是非が単一争点となる事態だけは極力避けたい。そんな危機感の表れだったのだろう。
それは取りも直さず、国民の多くがフクシマに学び、脱原発を志向しているという現実を知っていての警戒からにほかならない。
元首相二人のそろい踏みと、前日弁連会長の宇都宮健児氏。それぞれの言葉で、原発の再稼働反対や即時廃絶を訴えた。
いま一度フクシマと向き合った都民も多かったのではないか。
過酷事故から三年近く。いまだ十四万人が避難生活を送る。被災者の賠償や生活の立て直し、地域の除染、廃炉まで気の遠くなるような費用と時間がかかる。
福島に危険性を押しつけ、東京は発展した。核のごみの再利用システムも、最終処分場も欠いたままで。この地震列島には、同様の電力供給構造がいくつも組み込まれている。それが国策だった。
原発の立地地域や未来世代に目をつぶって生きるのか。自然エネルギーの開発に知恵を絞り、暮らし方を見直す道へとかじを切るのか。その選択でもあった。
舛添氏も「原発に依存しない社会を構築する」と主張した。けれども、代替エネルギーの確保を条件とし、原発廃止までの道筋は示していない。再稼働の可否も、国の仕事だとして語らなかった。
除名された古巣に支えられての勝利だ。独自路線は難しかったのかもしれない。とはいえ、東京は新潟の柏崎刈羽原発に再建を頼る東京電力の株主だ。再稼働反対の声にも耳を傾けねばならない。
◆原発回帰ではない
民主党政権も、安倍政権も、事故の責任や原発の限界を明確にすることから逃げてきた。今知事選であらためて浮き彫りになったのは、そんな曖昧体質だった。
フクシマと身の回りの深刻な課題との板挟みで、苦渋の選択を迫られた都民も多いだろう。
舛添氏も脱原発を公約したのだ。東京流の取り組みを披露してほしい。都民はフクシマ以前への回帰にお墨つきを与えたわけではないのだから。
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