結果不振選手批判はブラック企業の論理(日刊スポーツ 2014年2月12日)

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結果不振選手批判はブラック企業の論理
[ 2014年2月12日9時51分 紙面から ]
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▼全文転載

 

 毎回起こることだけれど、選手が結果を出せなかったとき、批判が出る。その批判の中には「選手の強化費は国費から出ているものだから、当然選手は結果を出すべきだ」というものがあるが、いったい、どの程度選手には強化費が使われているのだろうか。

 強化費に関して計算の仕方にさまざまな考え方があるので、どの程度、正確なのか分からない。12年ロンドン五輪では、ドイツが270億円強、米国 165億円、韓国150億に対し、日本は27億円という試算がある。ある程度のばらつきがあるとみても、日本の強化費はかなり少なく、その中でメダル数は よくやっていると言える。

 メダル数に最も影響する要素としては、人口、GDP(国内総生産)が50%程度、あとは科学技術やサポート態勢など、10程度の要素で残りの50%となっている。GDPと人口は簡単には変化しないから、スポーツ界が努力できる領域は50%の部分にかかってくる。

 メダル獲得に関して、日本はかなり不利な状況にいる。人口はそこそこながら先進国中で少子高齢化はトップを走っていて、GDPも減少しつつある。 また強化費は発表している国の中では最も低い中、選手たちは努力していると言えるのではないか。夏の五輪はそれでも注目が集まり、ある程度サポート態勢が 整っているが、冬季五輪は器具を使うためにかなりお金がかかるのに、サポート態勢がそれほど充実していない。

 もちろんメダル数などに関係なく、ただスポーツを楽しめばいいという考え方も素晴らしいと思う。実際にそう割り切っている国もある。その場合は強化費を減らせばいいのだが、ただしメダルは望めない。「お金はないがメダルは取れ」は少々、選手に酷な状況となってしまう。

 私は日本的精神論とは、(1)足りないリソース(資源)を気持ちで補わせる(2)全体的問題を個人の努力に押し付ける、だと考えている。結果が出 せないことに批判が集まるたび、ここ数年続くブラック企業を想像してしまう。全体として足りないリソースを残業などの個人の努力で補う。「できる、できな い」は気持ちの問題。それと似た空気を五輪の期間中も感じている。

 マラソンの円谷幸吉さんが重圧に押しつぶされ、自殺をしたのは1968年(昭43)だった。日本はあれから、どの程度変わったのだろうか。(為末大

 

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