原発被災者 支援法に魂を入れよ【社説】2013年8月5日<東京新聞 TOKYO WEB>

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原発被災者 支援法に魂を入れよ【社説】
2013年8月5日
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 原発被災者への支援が一向に始まらない。「子ども・被災者支援法」は成立から一年以上がたつのに、方策の前提になる被ばく線量基準の検討は手付かずだ。法を動かす責任体制を整えてほしい。

 原発事故で被害を受けている人々に「避難する権利」を認める支援法は、事故に対する国の責任を明らかにした、日本版の「チェルノブイリ法」とも呼ばれる。

 放射線量が「一定の基準」を上回れば、避難指示区域でない地域の住民や、自ら避難した人も医療や生活支援の対象に含まれる。とくに妊婦や子どもには配慮して、被災者には頼みの綱だ。

 しかし、昨年六月に成立してからも、担当する復興庁は基本方針を決めるための「一定基準」を定められないでいる。

 法制化を求めた市民団体は、線量の目安として、国が定める一般の年間の被ばく限度「一ミリシーベルト」を主張する。対象範囲を広げれば、財源の問題も出てくるだろう。どう線引きしても批判は起きるのかもしれない。

 しかし、忘れてもらいたくないのは、この法律が当時は野党だった自民党も含めて、衆参両院すべての党会派の議員が賛成して作られたことだ。

 長期にわたる低線量被ばくが人の体にどう影響を与えるのか。実証するデータは乏しいが、深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている学者も少なくない。線量の基準を科学が決められないのなら、将来に禍根を残さないよう、より被災者に寄り添う形で政治が決断する局面もあるのではないか。

 被災者のニーズを反映させるという法の趣旨も踏まえ、公聴会も早く開かれるべきだ。

 予算の流用も問題になった復興庁は今春、被災者との窓口になっていた幹部がツイッターに法を骨抜きにするような暴言を書き込んでいたことが発覚した。支援法の取り組みに消極的だった組織の問題が、思いがけず暴露されたようなものだった。支援法を担当する常設の部署がないのはおかしい。長くかかる支援に見合うだけの体制で臨んでほしい。

 福島県は、十五万人を超える人が県内外に避難する。ストレスの多い生活から、病気や子どもへの虐待が増え、震災関連死は千四百人を超えた。過去に例のない震災は刻々と新たな犠牲者を増やしている。

 支援の手を差し伸べなくてはならない。全国に離散した被災者の願いに一日も早く応えるために。



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