社説:待機児童対策 多様なニーズに応えよ<毎日新聞>

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社説:待機児童対策 多様なニーズに応えよ
毎日新聞 2013年03月08日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/news/20130308ddm005070173000c.html
▼全文転載


 保育所の待機児童が相変わらず問題になっている。東京都足立区や杉並区などでは認可保育所に子どもを預けられない母親たちが行政不服審査法に基づく異議申し立てを行った。地価や家賃の高い都市部では保育所の増設は難しいと思われがちだが、横浜市のように成果を上げている自治体もある。事業所内保育に意欲を持つ企業も多い。財源不足はもちろんだが、硬直した国の規制と自治体の工夫の足りなさも待機児童問題の大きな原因だ。

 待機児童とは0〜3歳児を中心とした主に都市部の問題であり、母親の働き方や家族の事情によって保育ニーズは異なる。全国一律の画一的な施策よりも、自治体や企業が現場の声を取り入れて柔軟に取り組むことが必要だ。

 横浜市では保育所不足が深刻な地域を特定して整備費や家賃補助を増額し、子育て相談に乗る「保育コンシェルジュ」を各区役所に配置して個々のニーズに合った保育の提供に努めている。定員割れが目立つ幼稚園を有効活用するため、夕方以降に預かり保育を行う幼稚園に市が補助金を出すなど、保育園と幼稚園の連携に力を入れている。この10年で2万人分の保育所定員を確保し待機児ゼロを達成しつつある。

 事業所内保育所の運営を検討している企業や団体も多い。子育てをしながら働く女性も勤務の事情によって夜間や休日の保育を利用しなければならないことがある。個別性が高く不規則な勤務に適応できる保育所があれば、出産後も働き続けられる女性はもっと増えるはずだ。

 ところが、事業所内保育所はなかなか増えない。大企業は定員の6割以上の子どもを預かり、かつその半数以上が自社従業員の子とするなど規制が厳しく、運営費の補助も5年間に限定されていることが壁となっている。雇用保険を原資に運営される企業の福利厚生の一つと位置づけられてきたことが、限定的な財源しか確保できない原因とされる。

 ただ、子育てしながら働きたい女性従業員のニーズに応え、企業の遊休施設の有効活用にもつながるのが事業所内保育所だ。待機児童から優先的に入所を認める一般の認可保育所は、これから出産したいという「潜在的待機者」の解消には即効性がないことも考えないといけない。

 税と社会保障の一体改革に盛り込まれた子育て施策では、消費税を財源として事業所内保育も含めた多様な保育サービスを整備することになっているが、実施は消費増税を待たないといけない。雇用と少子化対策は最重要課題ではないか。できるところからすぐに着手すべきだ。子どもの育ちは待ってはくれない。

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