G20でマスコミ報道はピンぼけばかり!本当に必要なのは「外為特会利権」の改革だ

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高橋洋一ニュースの深層
2013年02月18日(月) 高橋 洋一
G20でマスコミ報道はピンぼけばかり!本当に必要なのは「外為特会利権」の改革だ
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▼全文転載

(1)
 国際会議では、日本のマスコミは役所からのブリーフィングで記事を書くため、各社とも的外れはよくある。

 先週、G7とG20の共同声明が出されたのに対し、アベノミスクの金融政策の結果円安になったことに国際的な批判が集まったものの、なんとかそれを切り抜けたというマスコミ論調だった(例、17日付け日経新聞「「アベノミクス」薄氷の支持 G20が閉幕」)。

 しかし、「国内対策として金融政策を実施することによって結果として通貨安になるのはいいが、為替介入によって通貨安にしてはいけない」という国際常識さえ踏まえておけば、アベノミスクに対し国際的な批判が集まるはずない。マスコミ論調はどこか調子外れであることがわかる。

 この国際常識は、2年半前の2010年10月11日付け本コラム「メディアが書き立てる「通貨安戦争」悪者論を鵜呑みにするな G7で為替介入に理解を求めた政府のお粗末」に書いたように、当たり前だ。

日経新聞の「通貨安競争せず」は的外れ

 このため、変動相場制のもと為替が自由な市場で決まる仕組みのG7の共同声明では、「為替レートは市場において決定されるべきこと」、「財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないこと」が盛り込まれている。

 この共同声明も、日本のマスコミにかかると、「通貨安競争せず」となる(13日付け日経新聞)。G7の共同声明のどこにそのような表現があるのだろうか。

 2年半前の本コラムを読めばわかるが、金融政策による結果としての「通貨安戦争」は破滅的ではなく、むしろ世界経済の成長のためになる。当然、G7ではこうした国際常識は共有されている。共同声明は当然であり、日本のマスコミの「通貨安競争せず」との見出しは的外れになる。

(2)
 G20の共同声明は若干注意する必要がある。日本は薄氷と言うよりむしろ説明の機会を与えられたのだから、絶好のチャンスだったと思う。「インフレ目標の下で金融政策を行い、日本は変動相場制なので、為替は市場に委ねる」と説明すれば、非の打ち所がなく世界標準のパーフェクトな説明である。

中国の意向を反映した共同声明

 しかし、G7の共同声明を流用するとの見方が一時あったので、変動相場制でない中国などは動揺したのだろう。共同声明は、中国などの意向で変動相場制に関する部分がG7の共同声明よりかなり緩い書き方になっている。

「より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行し、為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避ける」という表現だ。「より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行」の英文は、"move more rapidly toward more market-determined exchange rate systems and exchange rate flexibility "だ。「より市場で決定される為替レート」の「より」はまさに中国向けの表現だ。

 その後に、「通貨の競争的な切り下げを回避する」("We will refrain from competitive devaluation")、「競争力のために為替レートを目的とはしない」("We will not target our exchange rates for competitive purposes")と書かれた。日本にとっては不都合でないが、変動相場制でなく為替介入して為替を競争力強化のために使っている中国などは、この表現でもきついだろう。

 と、当面はアベノミスクが国際的な批判を受けることもないが、それでも日本のアキレス腱はある。あえてそれを指摘すれば、日本の巨額な外貨準備高だ。GDP比でも先進国中ダントツで高い(下図)。

図URL
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(3)
 実は、外貨準備はほぼ為替介入の結果である(このため、外貨準備は外為特会の資産サイドとほぼ同じ規模である)。2年半前の本コラムでも指摘したが、これまで財務省は国際会議で為替介入に理解を求めてきた経緯もある。

 今回のアベノミスクに、ドイツのメルケル首相が為替介入して円安にしたと勘違いしたが、それは財務省が機会あるごとに為替介入に理解してくれといってきたから、今回も為替介入と思い込んだのだろう。

 たしかに、今回は財務省の公表している為替介入はまったくない。ところが、一般にはあまり知られていないが、外為関係者では周知のこととして、財務省は外貨準備の運用で外債ロールオーバーをやっている。これは形式的には為替介入でないとしている。

 しかし、外債の償還期限が到来した時にはドルで償還されてそれを円に代え円需要が発生するわけだが、それをロールオーバーで外債を購入することで円需要をなくして外貨需要を増やしており事実上の為替介入である。

 外債の償還期限が到来すると、外貨準備残高は減少するはずだが、為替介入がなくても外債ロールオーバーのために外貨準備残高は減少しない。

財務省の外貨準備の残高維持は徹底していて、外債の利息(外為特会の資産)もドルで受けるが、それを円転せずに、その相当分の外為証券(外為特会の負債) を発行して円キャッシュを受けている。そのため、外為特会の資産・負債はその分増加するのである。こうして外貨準備は増加し続けるのだ。

図URL
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(4)
 なぜこうした償還や利払で円転をしないかという公式の説明は、円転が為替相場に影響を与えるからだという。ところが、本コラムの読者であれば、こうした為替介入の効果は一時的であり、本格的に為替相場に影響を与えるのは、二国間の金融政策の差、とりわけマネタリーベースの差が大きいことをご存じだろう。今回のアベノミクスをみても、論より証拠だ。

 そうだとすると、なぜ先進国でも例を見ないほどに外貨準備残高を維持するのだろうか。それは、結局、外為特会の天下り利権といわれてもしかたないだろう。

 外貨準備の運用は金融機関にとって「おいしい」話だ。各金融機関が抜く財務省を相手とする売り買いのスプレッドは外為の秘密のベールに包まれている。残高は100兆円以上なのだから、スプレッドが0.01%としても100億円以上だ。外債のスプレッドがもっと大きいのは誰でも知っている。

 これを金融機関は求めて、直接的ではないにしても外郭団体などで財務省の国際金融関係者の天下りを受け入れる。財務省天下りネットワークを維持するためには、外貨準備残高の維持も必須ということになる。

外為特会の縮小・廃止は当然

 国際会議で、「日本は外債ロールオーバーをして外貨準備残高を維持していて、これは実質的な為替介入だ」と指摘されたら、日本はつらい。今後、国際社会からこうした批判があることも考えて、次期日銀総裁人事は考慮する必要がある。

 国際的な場でクリアに説明するためには、先進国で例を見ない外貨準備の改革(外為特会の縮小・廃止)が必要だ。適切な金融政策で、例えばインフレ目標2%と同じであれば、極端な為替変動は生じない。これが国際金融理論からの結論だ。逆にいえば、これまでの円のドル等の外貨に対する変動の多くは、日本が標準的な金融政策を採用してこなかったためだ。

(5)
 国内事情からも外為特会の縮小・廃止は当然だ。そもそも為替介入の効果がないのに、借金してまで為替介入することもない。事業仕分けで真っ先に廃止されるべきだった。おまけにこれまで巨額の為替差損を抱えてきた。このアベノミスクに乗じて、為替差損を一掃して為替介入事業を中止するのが当然だ。

 こう考えると、財務省天下りネットワークにお世話になった人は日銀人事で望ましくないのは明らかだ。

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