{日米同盟と原発}第4回「ビキニの灰」 (5)「平和利用」の大義 <東京新聞 TOKYO WEB

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日米同盟と原発

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第4回「ビキニの灰」 (5)「平和利用」の大義
2012年12月25日
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▼全文転載

◆動きだす産官学

1955年1月4日、外務省でビキニ事件の見舞金支払いで合意し、握手する重光外相(左)とアリソン駐日米大使

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 広島、長崎に続いて三度、核の犠牲になった日本。ところが、その悲劇はかえって、原子力の平和利用を勢いづかせた。

 ビキニ事件が明るみに出た半月後の一九五四(昭和二十九)年四月一日、衆院は「原子兵器の使用禁止」などを求める緊急決議案を全会一致で可決。しかし、決議には「原子力の国際管理とその平和的利用を促進する」などの文言もあった。

 議員を代表して提案理由を説明したのは、須磨弥吉郎(61)。前月に戦後初の原子力予算を議員提案したばかりの中曽根康弘(35)と同じ改進党だった。

 国会会議録によると、須磨は「二度ならず三度までも原子兵器の惨害を受けた日本は最大の発言力を有する」とした上で「この動力を平和産業に振り向 けることができるなら、世界が原子生産力による第二産業革命ともいうべき新時代を開拓し、本当の意味の平和を樹立できる」と述べた。

 第五福竜丸の地元、静岡県焼津市もそう。衆院決議の五日前、市議会は、まるで国の動きを先取りするように原子力の平和的利用を盛り込んだ決議案を可決していた。

 一方の科学者。「科学者の国会」と呼ばれる日本学術会議はこの時期、中曽根らの原子力予算を「時期尚早」と、反発していた。

 五四年四月二十三日の総会で発表した声明文は「今日の国際情勢は人類の平和と幸福に貢献するという確信をもってこのエネルギー源の研究を進められるにはほど遠い」としながらも、原子力開発の条件に「公開、民主、自主」を掲げた。

 これは後に平和利用三原則として、現在に至る日本の原子力政策の基本となる。学術会議は、原子力そのものを否定したわけではなかった。

 第五福竜丸の無線長、久保山愛吉の死去から約二カ月後の五四年十一月十五日、東京で開かれた「放射性物質の影響と利用に関する日米会議」。

 米国側からは原子力委員会(AEC)の専門家七人が出席。表向きはビキニ事件で高まった人体や食品の放射能汚染に関する意見交換が目的だったが、日本側にとっては原子力開発に向けた被ばく管理や対策などの情報収集の狙いもあった。

 会議が開かれる一カ月前、通商産業相(現・経済産業相)の愛知揆一(47)と自由党の参院議員宮沢喜一(35)が極秘に訪米。米政府から原発に関する文献や資料などの提供を受けていた。宮沢は後に首相に上りつめる。

 日米会議の資料によると、AECの生物物理課長ワルター・クラウスは、国立衛生試験所や気象研究所の研究者、大学教授ら日本の専門家を前に「数カ月間、放射能に汚染された魚を一匹食べたところで、人体に悪影響はない」と発言した。

 会議から一カ月半後の五四年十二月三十一日。厚生省(現・厚生労働省)はビキニ事件を機に続けていた南方沖で水揚げされたマグロの放射能検査を突 然打ち切った。各都道府県に通知した文書には「人体に対する危険を及ぼす恐れがまったくないことが確認された」と記してあった。政府による事実上の事件の 幕引きだった。

 その一週間前の十二月二十五日のクリスマス。原子力予算を使った海外調査団が欧米に向け羽田空港を飛び立った。メンバーは通産官僚や大学教授、後に原子炉を手掛ける日立製作所などの重電メーカー幹部ら産官学の十四人だった。

 日本を震撼(しんかん)させたビキニ事件。ところが、原水爆に反対する世論のうねりは皮肉にも原子力の平和利用へ口実を与えることになった。それこそ反核、反米運動を鎮めるため日本へ原子力技術を提供する米国が描くシナリオに沿うものだった。

 日米の思惑が重なり、日本の原子力開発に向けた歯車は大きく動きだす。その中心的役割を担ったのは読売新聞社主で、後に初代の原子力委員長に就任する正力松太郎(69)だった。

     ◇

 この特集は社会部原発取材班の寺本政司、北島忠輔、谷悠己、安福晋一郎が担当しました。シリーズ「日米同盟と原発」第5回は来年1月末に掲載予定です。

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