私の視点:2012衆院選/2 原発の「ゴミ」議論不足=専門編集委員・青野由利{毎日新聞}

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私の視点:2012衆院選/2 原発の「ゴミ」議論不足=専門編集委員・青野由利
毎日新聞 2012年12月05日 東京朝刊
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▼全文引用

 海岸沿いに巨大な「要塞(ようさい)」がそびえていた。24時間態勢で造り続けてきた防潮壁は海抜18メートル、長さ1・6キロ。福島の過酷事故後に浜岡原発に下された停止要請は原発政策転換の象徴に思えた。今、先行きが見えないまま伸びる「要塞」は政治の無策の象徴に見える。

 原発に「絶対安全」はなく、あるのは「リスクの大小」だけ。それが明らかになったのに、政治は原発ゼロに向けた新たな未来像を描けず1年9カ月がたった。故郷や仕事を奪われた福島の未来も白紙のまま。閉塞(へいそく)感やあきらめが広がるのは当然のことだ。

 そんな状況なのに各党が語っていないことは多い。物足りないのは原発の「ゴミ処理」だ。

 国内には約1万7000トンの使用済み核燃料がある。多くが原発敷地内のプールに、一部が青森県に送られ再処理工場のプールに保管されている。

 「全量再処理」の国策の下、これらはすべて「資源」だった。それが再処理をやめると言ったとたん、「ゴミ」となり、青森県は各原発に引き取りを求める。原発のプールにも余裕はない。満杯になれば原発は止まる。地元も「ゴミ」を抱えたくない。

 再処理はゴミ処分を先送りする仕組みでもあったが、現実の政策は技術・コスト両面から行き詰まっている。原発を減らしていくこととも矛盾する。燃やすあてのないプルトニウムを増やすことは核拡散防止上の大問題でもある。

 どんな政策をとるにせよ、原発のゴミ処理は残る。解決に向け新たな仕組みがいる。「総量管理」はゴミの量に上限を設けたり、増加分を抑制したりする考え方だ。「出口」から原発の稼働を管理し、ゴミが多過ぎるとなれば動かせない。

 「暫定保管」は取り出せる状態で数十〜数百年保管する。問題の先送りともいえるが、技術を発展させつつ、ゴミ処理を一人一人が考える猶予期間にもできる。電力消費地原発のゴミを他の地域に押し付けず、たとえば東京で保管するという議論にもつながる。

 民主党は再処理の方向性が見えないが、「総量管理」や直接処分に触れた。あいまいさは残るが、先送りしただけの自民党よりいい。日本未来の党は「総量規制」と「暫定保管」からなる「卒原発プログラム」を定めるという。中身がまだはっきりしないが、出口から脱原発を実現する試みになりうる。

 再処理問題の解決には米国の思惑や海外に外注している再処理もからむ。外交力にも注目したい。
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